琵琶湖の透明な水が静かに時を刻む滋賀県へ
目的地は、地元の人々の間で「生きた宝石」と謳われる針江生水(しょうず)の郷。
清廉な湧水が地域の理想を映す鏡のように、訪れる者の心を透き通らせます。
敷地内外に湧き出る清水が、川端と呼ばれる水路と巧みに連携している様子は、水に対する深い敬意と配慮が感じられます。
水は生命であり、「川端」はその生命を育む血管のようなもの。
その一滴一滴には地域の思いや歴史が流れているかのようでした。
この素朴な集落での暮らしは、環境と融合しており、その証拠が鯉の存在です。
彼らは川端で人々の日常の残り物を食べ、自然な循環を保つ助けになっています。
このためか、川の水は、上流から下流へと透明なままでいられるのです。
オーバーツーリズムが問題に
しかし、美しい水郷の背後には、観光による問題がでてきたそうです。敷地内へ勝手に侵入する訪問者や、水路での不適切な行動が増えてしまったとガイドさんの話から知りました。
穏やかな日々が観光客の波に脅かされつつある現状に。
そんな中で、対策として、見学をガイド付きツアーに限定することに。訪れる人々にはこの地域に住む人への配慮がほしいですね。
ガイドに従い針江生水を巡る
ガイドさんの案内で、私たちは約2時間の旅を始めます。
陽光が川面を照らし、風が葉を擽(くすぐ)る中、川端を歩きながら地区独特の水の文化について学びました。
目の前に広がるこの溝川は、たどれば過去の雪や雨の物語にたどり着きます。
100年前の天候が地中に染み込み、山間を経由して琵琶湖へと旅をしているのです。
しかし、琵琶湖との複雑な関係により、その水は土地の下に再び顔を出すことになります。
まるで水が自ら最適な土地を選んで流れているかのようです。
大きな川に立ち寄ると、自然との一体感を感じずにはいられませんでした。
季節によっては子どもたちが発泡スチロールで作った船を浮かべる光景が見られるそうです。
一見すると単なる遊びの光景ですが、実はこの地で受け継がれる生態系への敬意と理解を深める自然学習の場でもあったのです。
そして、川沿いの家々では、昔ながらの方法で川水を利用しています。野菜や鍋を洗うのにもこの清らかな水が使われているのですが、決して無頓着にではありません。自然と地域が共存し、支え合う、何世代にもわたる教えがここでは生きています。
“針江の鯉はカレーライスが大好物です”というガイドさんの言葉に、私たちは優しい笑顔を浮かべることができました。その言葉は、この地域がどれほど環境を大切にし、それを楽しみながら守っているかを物語っているのではないでしょうか。
針江生水の郷の訪問は、ただ美しい風景を目にする旅ではなく、深い教訓と共に自然を体感する、心に残る体験でした。